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 Top >> インフォメーション>>特集企画 >> 3.がん-陽子線治療/不破信和先生  
◎医療と健康の“いま”を知る
No.3/2008.9
日本の第一人者に聞く・最新医療エッセンス
世界が注目する『南東北がん陽子線治療センター』のオープンがいよいよ間近に迫ってきました。けれども陽子線治療の有効性については、まだまだ十分に認識されていない状況もあるようです。
「ひとりでも多くの方に、陽子線治療の効果を理解してほしい」と語る南東北がん陽子線治療センターのセンター長、不破信和先生に陽子線治療が『究極のがん治療』と呼ばれる理由をお話いただきました。
不破先生は、23年間、がん治療の拠点、愛知県がんセンターで臨床・研究に取り組み、厚生労働省の班研究でも主任研究員として活躍してこられました。今後は大学や専門の医療機関とも連携を深めつつ、陽子線治療の普及と発展にも努めていかれる予定です。
どうやら第一線のドクターの目には、がん医療の未来の姿がはっきりと見えているようです。

 

不破信和 (ふわ・のぶかず)
財団法人脳神経疾患研究所 南東北がん陽子線治療センターセンター長/愛知県がんセンター中央病院 副院長 兼 放射線治療部長等を歴任/厚労省班研究にも携わる

 

陽子線治療とは?

―陽子線治療の特長について、ご説明頂けますか。

 陽子線治療は、外科と考え方が似ています。外科はがん腫瘍を手術で取り去ってしまうわけですが、陽子線治療はメスを使わず、切らずにがん腫瘍だけを完全に壊死させるわけです。患者さんにとっては体に負担が少ない治療です。ですから、ご高齢の方や、体力がなくて手術できないような人でも適用になります。がんによっては手術を上回る成績も期待できます。
 治療時間は機器のセッティングも合わせて15分から長くて30分程度。照射そのものは数分です。外来で普段通りの生活をしながら治療できるというのも大きなメリットになるはずです。


―放射線治療というと副作用が気になるという方もおられると思いますが、その点はいかがでしょう。

 治療法の分類では放射線治療ということになりますが、X線やγ (ガンマ)線といった通常のライナックとは放射線の分布が違います。体の中のがんへの集中性が高いのです。皮膚や周辺組織への影響も少ない。体の表面から狙った深さでエネルギーが最大になるように制御します。数ミリの精度でがん腫瘍だけに最大のダメージを与えることができるんです。ですから、副作用も少なくなる。放射線治療の専門家がこれを見ると、その切れ味に驚嘆するはずです。


―陽子線が治療対象とするがんにはどのようなものがあるのでしょうか。

 国内には先行する国公立の陽子線治療施設が6か所ありますが、そこでの経験を通してがんができた場所や転移の有無、大きさや進行期などで向き不向きがあることが分かっています。
 陽子線治療に向いているのは鼻、顔面、のどといった頭頸部の腫瘍や頭蓋内病変、肺、肝臓、前立腺、膀胱などの原発性がんと、単発性の転移性腫瘍などです。逆に胃や大腸などの消化管のがんは一般に陽子線の適応とはなりません。胃腸の粘膜は放射線で潰瘍ができやすいからです。消化管が近接する胆のうがんや胆管がんなども不向きです。
 ただし、これらのほかに、子宮や食道、膵臓、脳などについても試験的な治療が行われており、有効性も確認されつつあるところです。
 南東北がん陽子線治療センターとしては、隣りに充実した設備を誇る眼科クリニックがあり、また、その隣りの総合南東北病院には、脳外科専門のドクターが10人近くも揃っています。そうした南東北グループの特色を活かして、目や脳の腫瘍にも力を入れていきたいと考えています。目の腫瘍ですと、日本では放医研(千葉県にある放射線医学総合研究所)でしか粒子線の治療を受けられないのが現状なんです。
 それから、目と目の間の篩骨洞(しこつどう)の腫瘍。脳に近くて手術もできません。手術をすると顔の半分がなくなってしまいかねない。そういう方にとっては、なくてはならない治療装置ということになります。


―将来的にはいろいろながんの症例にも適応になるのでしょうか。

 世界的にも行なわれていないんですが、進行肺がんで、リンパ節と原発巣が一体になってあるもので、しかも手術もできないものは適応を考えています。肺がんは死亡率も高いですね。初期症状がなく、見つかる段階が三期肺がんといって、手術できない場合が多いんです。ところが、肺は通常の放射線に非常に敏感で、副作用のリスクが高いんです。一応がんは消えても、放射線による肺炎ができてしまう。そうなるとかなり高い確率で亡くなります。そういう方に対しても、かなりインパクトのある治療ができるだろうと考えています。
 陽子線だと、肺がん治療に今は1カ月くらい費やしていますが、将来的には4回の照射で終わる可能性もあります。2センチ以内の末梢肺がんなら2〜3時間の外来治療で治る可能性もあるんです。早期肺がんが1日で治る。そんな時代がやってくると思います。


―先生がお考えの「究極のがん治療」とはどのようなものか、お伺いしたいのですが。

 舌がんの場合を例にしますと、私が愛知県がんセンターで取り組んできた治療法に「動注化学放射線療法」というものがあります。副作用を抑えた高齢者にも可能な舌がん治療です。手術と変わらない効果があります。おそらく私は世界で最も多くの症例をこなしていると思いますが、舌に放射線を当てながら同時にカテーテルで抗がん剤を流し込みます。これでがんはきれいに治るんです。手術と同等の成績で治癒させることが可能です。
 どうしてそうなるのかと言うと、がんのところだけに抗がん剤や放射線を集中できるからです。ですから、これが究極のがん治療なんですが、肺やほかの臓器にこの方法は使えません。舌がんだからできるんですね。そこで、こうしたことをほかの臓器にも拡げたいというのが陽子線治療の目的なのです。
 これまでに、世界中で積み上げられてきた研究や臨床の成果を最大限に活用し、陽子線を軸に放射線、抗がん剤を組み合わせた治療を考えています。ですから、このセンターを核にした民間初のがんセンターを目指しているとお考え下さい。

正常組織にダメージを与えず、メスを入れずにがんを治療する
究極のがん治療―陽子線治療とは?


陽子線治療とその原理

 陽子線(粒子線)治療は放射線治療のひとつになります。放射線は大きく二つに分けられます。
 ひとつは光の波で、γ(ガンマ)線とX線があります。通常リニアックと呼ばれるものは、電気的に電子を加速させ、タングステンに当てて出るX線です。一方、粒子線は炭素線と陽子線に分かれるんですが、加速した粒子ががん細胞に傷害を与えるものです。
 通常のリニアックの線量分布は図を見て頂くと分かりますが(左頁)、放射線を当てると、通常は体の表面から1・5センチくらいのところでピークを作り、そこから下がります。だからがんに対しての放射線量は減ってしまうんです。これがリニアックの限界なんですね。
 それに対して、陽子線だとブラッグピークと言って、狙ったがんの病巣に充分な線量を当てることができるんです。
 がん細胞に与えるダメージにも違いがあります。細胞の中の核には遺伝子の本体、DNAがあって、それは二重螺旋構造を持っています。X線やガンマ線といった通常のリニアックの場合は、片方の螺旋構造の一部をちょっと切ることが多く、反対側は残っています。そのためにがん細胞はまた生き返ることがある。炭素線や陽子線は粒子で両方いっぺんに切る確率が高い。だから細胞は生き返る確率が低くなります。

 

陽子線治療の実際について

 実際の治療は、最初にPETやCTやMRIで撮影し、がんの位置を正確につかみ、治療計画を立てます。旧来の治療と違って、専門の物理士や技師が、医師とともに詳細に検討します。治療にあたっても、1回ごとに位置を照合、確認し、初めてビームを照射します。その際、人は呼吸して動きますから、筑波大学で開発された呼吸同期と呼ばれる方式で、呼気に合わせて照射するよう制御します。肺や肝臓、食道のがんに正確に当てる技術です。私たちが導入するのは、世界でも最新のレーザーシステムです。
 ビームが出るのは2〜3分ですが、こうした機械的な操作に結構時間がかかります。いかに正確に当てるかが重要になります。
 PET(ペット)は南東北グループではいち早く導入し、高精度のがん健診に活用しておりますが、実は陽子線が正確に腫瘍をとらえているかを確認する方法としても有効です。10分から20分後にPETで撮影すると、照射の実際を見ることができます。南東北がん陽子線治療センターでは、理事長に無理なお願いをして、照射室の横に専用のPET-CTを導入しました。おそらくこうした連携は世界で初めてのことだと思います。このために2億円を投じました。
 治療途中の状況を確認しながら、最初の照射計画を見直していくことが必要な症例もありますから、定期的にPET-CTで撮影できるメリットは大きなものとなるでしょう。
 すべて治ると軽率に言うわけにはいきませんが、手術が難しい、できない、あるいは嫌だ、という方にとって、治療の選択肢は増えました。
 南東北がん陽子線治療センターでは、陽子線治療を軸に、これまでの放射線や抗がん剤治療の研究や臨床の成果も大いに取り入れていきます。対象として考えているがんも、かなり幅広い症例が対象になると思います。転移の場合も、ここだけはどうしても命取りになる、という場合は陽子線の適応も考えています。
 すでに前立腺がんの治療予約を受け付けておりますが、前立腺がんは陽子線が最も得意とするがんのひとつです。神経を損傷せずにピンポイントで治療できる有効性は高いのです。ED(勃起不全)などの心配もなくなります。
 手術をするのがかなり難しい進行肺がんや食道がん、肝臓がんの方にもこういう治療をして、何とか生存率を高めていきたいと考えています。

 

 

 

陽子線治療前(左)と治療後(右)のPET画像での比較。矢印で示した赤く見える病巣(肺がん)が小さくなっているのが確認できる。陽子線の効果は、治療後も3〜4か月続くという。

 

陽子線治療装置の粒子加速器シンクロトロン。ここで光の速度の約7割という早さに加速され、高エネルギー状態になった陽子線ビームは下の回転ガントリーに運ばれます。

 

回転ガントリー。直径が10メートル、総重量が200トンもある巨大な装置で、この中を通過しながら、陽子線ビームは方向などを制御され、陽子線照射室へと運ばれます。

  「南東北がん陽子線治療センター」の陽子線ビーム照射装置。セッティング作業が終われば、患者さんは台の上に寝ているだけ。ビーム照射部分が回転・移動してピンポイントでがん病巣を狙い撃ちする。ビームが出るのは2〜3分程度で、その精度は数ミリ単位という正確さ。苦痛もなく治療は終了する。

 

  陽子線の特長は、体の内部のある深さで線量をピークにできること。そのため、従来のX線やガンマ線よりも正常細胞への損傷を抑えながら、病巣だけに集中照射できます。

 

 

  従来の放射線はがん病巣に達するまでに、身体の表面に近い正常細胞にもかなりの影響を与える一方、がんの病巣のところでは減弱し、本来の効果を十分に発揮できないという弱点がありました。それに対して陽子線では、正常細胞への損傷を低く抑えながら病巣だけに集中照射ができます。

南東北がん陽子線治療センターが2008年10月オープンしました。>>オフィシャルサイト

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