陽子線治療とは?
―陽子線治療の特長について、ご説明頂けますか。
陽子線治療は、外科と考え方が似ています。外科はがん腫瘍を手術で取り去ってしまうわけですが、陽子線治療はメスを使わず、切らずにがん腫瘍だけを完全に壊死させるわけです。患者さんにとっては体に負担が少ない治療です。ですから、ご高齢の方や、体力がなくて手術できないような人でも適用になります。がんによっては手術を上回る成績も期待できます。
治療時間は機器のセッティングも合わせて15分から長くて30分程度。照射そのものは数分です。外来で普段通りの生活をしながら治療できるというのも大きなメリットになるはずです。
―放射線治療というと副作用が気になるという方もおられると思いますが、その点はいかがでしょう。
治療法の分類では放射線治療ということになりますが、X線やγ
(ガンマ)線といった通常のライナックとは放射線の分布が違います。体の中のがんへの集中性が高いのです。皮膚や周辺組織への影響も少ない。体の表面から狙った深さでエネルギーが最大になるように制御します。数ミリの精度でがん腫瘍だけに最大のダメージを与えることができるんです。ですから、副作用も少なくなる。放射線治療の専門家がこれを見ると、その切れ味に驚嘆するはずです。
―陽子線が治療対象とするがんにはどのようなものがあるのでしょうか。
国内には先行する国公立の陽子線治療施設が6か所ありますが、そこでの経験を通してがんができた場所や転移の有無、大きさや進行期などで向き不向きがあることが分かっています。
陽子線治療に向いているのは鼻、顔面、のどといった頭頸部の腫瘍や頭蓋内病変、肺、肝臓、前立腺、膀胱などの原発性がんと、単発性の転移性腫瘍などです。逆に胃や大腸などの消化管のがんは一般に陽子線の適応とはなりません。胃腸の粘膜は放射線で潰瘍ができやすいからです。消化管が近接する胆のうがんや胆管がんなども不向きです。
ただし、これらのほかに、子宮や食道、膵臓、脳などについても試験的な治療が行われており、有効性も確認されつつあるところです。
南東北がん陽子線治療センターとしては、隣りに充実した設備を誇る眼科クリニックがあり、また、その隣りの総合南東北病院には、脳外科専門のドクターが10人近くも揃っています。そうした南東北グループの特色を活かして、目や脳の腫瘍にも力を入れていきたいと考えています。目の腫瘍ですと、日本では放医研(千葉県にある放射線医学総合研究所)でしか粒子線の治療を受けられないのが現状なんです。
それから、目と目の間の篩骨洞(しこつどう)の腫瘍。脳に近くて手術もできません。手術をすると顔の半分がなくなってしまいかねない。そういう方にとっては、なくてはならない治療装置ということになります。
―将来的にはいろいろながんの症例にも適応になるのでしょうか。
世界的にも行なわれていないんですが、進行肺がんで、リンパ節と原発巣が一体になってあるもので、しかも手術もできないものは適応を考えています。肺がんは死亡率も高いですね。初期症状がなく、見つかる段階が三期肺がんといって、手術できない場合が多いんです。ところが、肺は通常の放射線に非常に敏感で、副作用のリスクが高いんです。一応がんは消えても、放射線による肺炎ができてしまう。そうなるとかなり高い確率で亡くなります。そういう方に対しても、かなりインパクトのある治療ができるだろうと考えています。
陽子線だと、肺がん治療に今は1カ月くらい費やしていますが、将来的には4回の照射で終わる可能性もあります。2センチ以内の末梢肺がんなら2〜3時間の外来治療で治る可能性もあるんです。早期肺がんが1日で治る。そんな時代がやってくると思います。
―先生がお考えの「究極のがん治療」とはどのようなものか、お伺いしたいのですが。
舌がんの場合を例にしますと、私が愛知県がんセンターで取り組んできた治療法に「動注化学放射線療法」というものがあります。副作用を抑えた高齢者にも可能な舌がん治療です。手術と変わらない効果があります。おそらく私は世界で最も多くの症例をこなしていると思いますが、舌に放射線を当てながら同時にカテーテルで抗がん剤を流し込みます。これでがんはきれいに治るんです。手術と同等の成績で治癒させることが可能です。
どうしてそうなるのかと言うと、がんのところだけに抗がん剤や放射線を集中できるからです。ですから、これが究極のがん治療なんですが、肺やほかの臓器にこの方法は使えません。舌がんだからできるんですね。そこで、こうしたことをほかの臓器にも拡げたいというのが陽子線治療の目的なのです。
これまでに、世界中で積み上げられてきた研究や臨床の成果を最大限に活用し、陽子線を軸に放射線、抗がん剤を組み合わせた治療を考えています。ですから、このセンターを核にした民間初のがんセンターを目指しているとお考え下さい。
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