総合東京病院 心臓血管外科
前場 覚 先生に聞く 心臓血管外科手術の最前線
心臓手術を余儀なくされた患者さんに
「プロフェッショナル」として向き合う

南東北グループ
医療法人財団健貢会 総合東京病院 心臓血管外科
前場 覚 先生
Satoru Maeba M.D., Ph.D.
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弁膜症や感染性心内膜炎に対する弁形成術・弁置換術
虚血性心疾患に対する冠動脈バイパス手術・心筋梗塞合併症手術
大動脈疾患に対する人工血管置換術・ステントグラフト留置術
不整脈に対するアブレーション手術(メイズ手術)
【 専門医・指導医等 】
● 日本心臓血管外科学会認定心臓血管外科専門医・国際会員
● 3学会構成心臓血管外科専門医認定機構修練指導者
● 日本循環器学会認定循環器専門医
● 胸部ステントグラフト指導医
● 腹部ステントグラフト指導医
● 日本低侵襲心臓手術学会指導医
● 医学博士
1996年 山梨医科大学医学部卒業 広島大学医学部第一外科入局
2001年 厚生連広島総合病院 心臓血管外科
2004年 クアラルンプール国立心臓病センター(IJN)胸部心臓外科
2006年 財団法人竹田綜合病院 心臓血管外科 科長
2014年 上尾中央総合病院 心臓血管外科
2016年 総合東京病院 心臓血管外科 部長 現在に至る
【 対象疾患・症状 ] 】
● 弁膜症や感染性心内膜炎に対する「弁形成術」「弁置換術」
● 虚血性心疾患に対する「冠動脈バイパス手術」「心筋梗塞合併症手術」
● 大動脈疾患に対する「人工血管置換術」「急性大動脈解離に対する緊急手術」
※ステントグラフト留置術は総合東京病院、血管外科にて施行されています。
● 不整脈に対する「アブレーション手術(メイズ手術)」
● 成人先天性心疾患に対する修復手術
● その他の心臓手術
心臓の手術に踏み切る決断には、患者さん一人ひとりの不安や迷いが伴います。心臓血管外科医は、その重みを真正面から受け止める覚悟をもって、日々の手術に臨むことが求められます。
心臓の手術は、単に「手技が成功すれば、終わり」ではありません。術後の生活や、患者さんとご家族が再び日常を取り戻すまでを見据えてこそ、治療としての意味を持ちます。
とりわけ働き盛りの世代にとっては、「仕事に復帰できるか」「社会とのつながりを失わないか」といった不安が切実です。前場先生は、こうした思いに応えるため、可能な限り小開胸手術を導入し、術後4日目退院を標準とした早期の社会復帰を支えています。
心臓外科手術の最前線に立つ前場覚先生に、その診療哲学と患者さんに伝えたい思いをうかがいました。

心臓血管外科とは
心臓の疾患に向き合う⼼臓⾎管外科と循環器内科
— ⼼臓⾎管外科とは、どのような病気や⼿術を取り扱うのでしょうか?
多くの心臓血管疾患は、薬物治療やカテーテル治療で対応できるため、主に循環器内科で治療が行われます。
しかし、弁膜症や先天性心疾患といった心臓の構造に関わる異常、重症の冠動脈病変、さらには大動脈疾患などの一部では、胸を開く外科手術が必要となる場合があります。
そのような⽅は、循環器内科の医師から⼼臓⾎管外科を紹介され、外科的治療が検討されることになります。

MICS(ミックス)手術と心臓血管外科の進歩
— ⼼臓外科の分野で⼤きく進歩した技術や治療法について教えてください。
弁膜症・大動脈・冠動脈の各分野は大きく進歩しています。10〜20年という長い視点で見ると、右胸壁の小開胸による弁膜症手術、いわゆるMICS手術(注)がほぼ標準になりつつあります。従来の胸骨正中切開と比べ、骨を切らず創部も小さいため、術後回復が早く、感染も少ないことが統計的にも示されています。側胸部の小切開は外見上も目立ちにくく、患者さんから好評です。
私は当初、国内の施設でこの手術を見学しましたが導入には踏み切れませんでした。ところが2012年になってイタリアのグラウバー(Glauber)教授の手術に約1ヵ月立ち会い、これなら実践可能と確信し、MICS手術を開始しました。それから13年が経ち、成績も安定しています。
今後は低侵襲手術がさらに主流となり、AIによる画像診断支援などを活用しながら、安全性が一層高まっていくと考えています。
(注)MICS手術とは、胸骨を大きく切開せずに、肋骨の間から、小さな皮膚切開(5〜5cm)で行う低侵襲の心臓手術です。体への負担が少なく、痛みも軽いのが特徴です。術後の早期リハビリや社会復帰が可能となり、QOL(生活の質)の向上が期待できます。

MICS(小開胸低侵襲心臓手術)の例
(通常の場合、術後4日目退院)

左:通常の切開範囲 右:MICS切開範囲の一例
心臓血管外科医として
記憶に残る一人の患者さん
— これまでの⼿術経験で、特に印象に残る症例はありますか?
どの外科医も同じだと思いますが、手術が順調に終わり、患者さんが元気に退院されると、その記憶は次第に薄れていきます。一方で、手術自体は成功したにもかかわらず、重篤な脳卒中を合併された方や、術後肺炎で亡くなられた方のことは、強く記憶に残ります。
今から約15年前、指導医のサポートから独立して5年ほど経った頃、胸部大動脈に巨大な瘤(こぶ)を有する70代の女性が紹介されてきました。破裂の危険性が極めて高く、胸部大動脈の大部分を人工血管に置き換える大手術を行いました。
しかし術後、原因不明の高次脳機能障害を発症し、誤嚥性肺炎を繰り返しました。気管切開と経管栄養で懸命に治療を続けましたが、数ヵ月後に亡くなられました。
私は深く落ち込みましたが、その後、ご家族から感謝と励ましの言葉をいただき、胸が詰まり涙が出ました。もし自分の手術がもっとスムーズに行えていたら…。そう自問しながら、基本手技から高度な手技に至るまで、すべての手術工程を再考しました。同時に、本当の意味で機能するチームづくりを、あらためて考えました。
少しでもその方に報いたいという思いから、日々の臨床に加え、会津大学理工学部と合同で心機能の研究にも没頭しました。この経験は、私の診療スタンスを大きく変える転機となりました。
総合東京病院 ⼼臓⾎管外科について
— この病院の心臓血管外科の強みは何ですか?
私が自信をもってお伝えできる強みは、臨床工学技士やリハビリスタッフをはじめとするコメディカル、そして看護師スタッフの質の高さです。私は幸運にも、優れた人材に恵まれていると感じています。深夜の緊急手術においても、手術室スタッフは常に全力で支えてくれます。
どの医療機関にとっても人材こそが何よりの財産ではないでしょうか。特に心臓血管外科のようにチーム医療が不可欠な診療科では、個々の外科医がいかに優秀であっても、チームづくりを怠れば良好な成績を残せない例が少なくありません。
心臓血管外科医としての信念
— ⼿術に臨む際に、心臓血管外科医として最も⼤切にしていることは?
まず大切なのは、集中し没頭しているような、精神的「フロー」の状態にあることです。「明鏡止水」という言葉は、その状態を的確に表していると感じます。加えて、常に機嫌よくいること――これが実は最も難しい点です。この「明鏡止水」と「機嫌の良さ」を両立できたときこそ、最良の手術ができる境地なのだと思います。
しかし実際に実践してみると、また一段深い境地があることにも気づかされます。
心臓手術に限らず、あらゆる外科手術では、一つの手術の中でも小さな想定外の出来事が繰り返し起こります。ごくまれに、大きな想定外事象に直面することもあります。
そうした状況でも動揺せず、「必ず軟着陸させる」という強い意志を持ち続けることが重要だと思います。それは、猛吹雪に見舞われても冷静に操縦を続ける航空機の機長の心境に、どこか通じるものがあるかもしれません。
患者さんの信頼に応え、日々、最善を尽くす
— ⼼臓⾎管外科手術を受ける患者さんに伝えたいことは?
患者さんやご家族は、どうしても心臓⼿術に対して不安を抱かれると思います。不安や疑問は、遠慮せずに投げかけてほしいと思います。
近年、手術前のリスク評価は進歩し、合併症の確率が数値で示されるようになりました。たとえば「この手術による脳梗塞の合併率は1・2%です」といった形です。これは膨大なデータベースに基づく客観的な指標ですが、患者さんにとっては心理的負担になることも少なくないでしょう。
一方、ガイドブックなどでは「手術成功率99%」といった表現を目にすることがあると思います。しかし、私はこれに強い違和感を覚えます。手術が成功したことと、外科治療全体が成功したことは同義ではないからです。手術成功率という数値だけでは測れない術後の経過や生活への影響も含めて捉える視点が大切です。
十分な説明を受ける権利が、患者さんにはあります。心臓血管手術は人生に大きく関わる治療だからこそ、納得し、信頼できる外科医のもとで臨んでください。私たちは、私たちを信じて手術をまかせてくださる患者さんの思いに応えられるよう、日々最善を尽くしています。


クアラルンプール国立心臓病センター/通称 IJN(Kuala Lumpur National Heart Institute) 手術室にて
IJNはマレーシア最高峰の心臓病センター 2004~2006

IJNにおける師、ダト・ドクター・アズハリ・ヤクブ(Dato Dr. Azhari Yakub)医師を中心に、心臓胸部外科医らとともに 2006
先輩医師イシャム(Isham)氏は、現在ブルネイの厚生省大臣

会津大学理工学部画像処理教室とジョイント研究成果を
IJNにて発表 2012

East Carolina Heart Institute,Dr.W.Randolph Chitwood,Jr、Dr.Sutterのもと
Da Vinci system Surgical System Off-site training 2013

世界的な権威グラウバー(Mattia Glauber)教授のもとMICSトレーニング

MICS(小開胸手術)トレーニングToscana, Italy 2012
総合東京病院 心臓血管外科のチーム医療
互いの尊敬と信頼が生む最善の心臓血管外科医療
手術室 看護師長 瀬戸 妙子 さん
前場先生は、常に患者さんを最優先に考えます。時間や労力を惜しまず、手術という治療が患者さんにとってリスクとベネフィット(恩恵)のバランスに見合うものかどうかを常に吟味し、丁寧に診療に向き合っています。その姿勢は常に一貫しており、深い敬意を抱いています。
スタッフ一人ひとりを尊重し、「一緒に考えよう」「知恵を貸してほしい」と声をかけてくださることで、チームとしての連携も自然に深まります。その結果、手術室全体の士気も高まり、前向きに力を発揮できています。
手術は常に冷静で指示は的確、難症例においてもチーム全体を見渡しながらリーダーシップを発揮されています。
さらに、術前・術中・術後を通して医療環境や体制を丁寧に確認される姿勢が、合併症予防と安全な医療につながっています。
術後のフォローも含め、最後まで患者さん本位の医療を実践されている点が強く印象に残ります。
心臓血管外科は、麻酔科医や循環器内科医との連携が欠かせませんが、先生の言葉の端々からは、相手に対する尊敬と信頼が常に感じられます。その姿勢があるからこそ、互いに安心して役割を果たし、患者さんに最善の医療を提供できていると思います。
冷静で的確な判断力と必要な情報共有がしやすい存在
CCU/集中治療部門 看護師 川上 美紀 さん
私は心臓血管外科手術後の患者さんの管理とともに、副主任心得として病棟管理にも関わっています。
前場先生は常にスタッフを気遣い、看護師を守る姿勢を示してくださるため、安心して相談できます。馴れ合いではない適度な距離感のなかで、必要な情報共有がしやすい存在です。
術後管理や安全管理についても意識が高く、特に感染管理や清潔操作を重視されており、その姿勢が病棟全体の意識向上にもつながっています。患者さんの状態変化があった際の判断も早く、的確な指示をその場で出してくださるため、私たちも動きやすいと感じています。
特に印象深かったエピソードとしては、認知機能の低下が疑われた患者さんのケースがあります。
看護師に対して暴言が多く、病棟全体が疲弊していました。前場先生は看護師からの情報やカルテをもとに状況を把握され、「このままでは安全に手術ができない」と判断し、予定されていた手術を一度すべてキャンセルされ、その上で、患者さんとご家族を含めてあらためて評価・説明を行い、仕切り直して手術に臨まれました。
その判断力と、医療安全を最優先する姿勢には深く感銘を受けました。
医療安全に寄与する手術中の意思疎通、情報共有
臨床工学技士 垣花 丈隼 さん
前場先生は、ご自身には厳しく、周囲には常に配慮を欠かさない心臓血管外科医です。術中の緊迫した状況でも質問や指摘をしやすい雰囲気をつくってくださり、判断や指示は明確で落ち着いています。
特に印象的なのは、術中に「なにか困ったことはあるか?」と声をかけてくださることです。
人工心肺装置は医師の指示のもとで操作を行いますが、数多くある計器の値をすべて医師が確認しながら執刀するのは不可能であるため、私たちは操作をしながら「医師に報告すべき数値の変化がないか」「何か異常が発生していないか」を常に見極める必要があります。
即座に医師へ報告して指示を仰がなければいけない情報がある一方で、状況によっては不要な報告や過度の情報は、かえってトラブルに繋がる恐れがあるため、報告内容や報告するタイミングも考えなければいけません。そのため、大変なプレッシャーやストレスを感じる場面が多々あります。
そんなときでも、「なにか困ったことはあるか?」という前場先生の一言で、情報を安心して伝えることができ、医療安全にも大きく寄与しています。
親身に患者さんに寄り添い真剣に向き合う心臓血管外科医
診療看護師 手塚 雄太 さん
前場先生と出会ったのは約10年前です。第一印象は「厳しい医師」でしたが、関わる中で、その厳しさはすべて患者さんを守るためであると理解しました。今では「実は最も優しい医師」だと感じています。
手術中の判断は的確で、慌てている姿を見たことは一度もありません。
特に印象的なのは、「気づいたことがあれば何でも言ってほしい」と、スタッフの声に耳を傾ける姿勢です。この姿勢がチーム医療の質と安全性を高めていると感じます。
患者さん、ご家族への説明も丁寧です。手術前の診療時から、どの患者さんに対しても時間をかけて説明します。手術をするかしないかの判断もその場で決めるように促すのではなく、ご家族でゆっくり話しあって決めていただくようにしています。
手術後の病棟では、「いつも顔を見に来てくれて安心」、「あれで手術もしているんだから、先生はいつ休んでいるのかと驚く」という患者さんの声を何度も聞いたことがあります。私も同じ感想で、これほど親身に患者さんに寄り添い、真剣に向き合ってくれる医師は、今まで見たことがありません。
特に循環器内科の先生たちとの協力関係は良好で、お互いの職域を理解し、尊重し、協力しているのを感じます。
MESSAGE
心臓血管センター 循環器内科医の立場から
総合東京病院 循環器内科部長 中野 雅嗣 医師
前場医師は高い手術技術と豊富な経験を兼ね備えた心臓血管外科医です。難易度の高い症例やリスクの高い患者さんに対しても冷静に対応し、患者さんの体力や病態を総合的に評価したうえで、内科治療と外科治療のどちらが適切かを公平に判断されています。
日常診療では、依頼する医師を問わず迅速に対応していただけるため、相談しやすく情報共有も円滑です。当院では、緊急時や判断の難しい場面でも、直接連絡を取り合い速やかに治療方針を決定できる体制が整っていますが、その中心で前場医師が患者さんの救命に向けて常に前向きに力を尽くされていることが、良好なチーム医療につながっています。
手術の難易度にかかわらず、どのような患者さんでも安心して紹介できる外科医であり、患者さん一人ひとりに向き合いながら最良の治療を実行する力を備えた存在です。
当院では内科・外科が緊密に連携し、患者さんの病態に応じたバランスの取れた治療を提供しています。循環器内科医一同、心臓外科手術において前場医師に全幅の信頼を寄せており、心臓疾患をお持ちの患者さんには、ぜひ当院での治療をご検討ください。
南東北病院グループ 医療法人財団 健貢会 総合東京病院
451床(急性期292床・回復期159床)
■ 〒165-0022 東京都中野区江古田3-15-2
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